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2011.10.25
[イベントレポート]
ドキュメンタリー界の巨匠がプロの俳優2名のみで大江作品に挑んだ!―10/23(日)アジアの風『飼育』:Q&A

10月23日(日)、アジアの風『飼育』の上映後、リティー・パニュ監督、脚本を担当したミシェル・フェスレーさん、主演のシリル・ゲイさんが登壇、Q&Aが行われました。
『飼育』

©2011 TIFF

 

Q. どうしてこの作品を作ろうと思ったのですか?

リティー・パニュ監督(以下:パニュ): 私はもともと、子どもが革命や軍に巻き込まれていく状況というのを描きたいと思っていたのです。長い間そのことについて考えていたのですが、そういう中で大江健三郎の作品に出合いました。彼の作品をとても尊敬しています。まず大江さんの広島の作品を読み始めたんです。そのうちに他の小説も読むようになりました。文学作品の中での原爆反対だとか、平和主義だとか、その人道的な活動ぶりを非常に尊敬しています。それで彼の作品を映画化しようと考えました。小説を映画化する許可を与えてくれた大江さんに、感謝申し上げたいと思います。
『飼育』

©2011 TIFF

 

Q. 大江作品「飼育」と今回の映画では舞台・時代が違います。どういう部分を同じメッセージにして、どういう部分をオリジナルにしていこうと考えていたのですか?

 

ミシェル・フェスレー(以下:フェスレー): この作品を作り、脚色するにあたっては監督とよく協議をして、どのように小説を映画化していくかを考えました。当然時代も国も変わりますし、適応させていかなくてはいけません。違う時代の違う戦争を扱っているわけですね。それゆえにさらにこの映画の中での写実に近づいていくわけなんです。この映画のなかの子どもは、始めは兵士ではないのです。他の子どもや人と同じように農民なんですけれども、監督とともに話し合ったのは、どうやってイデオロギーゆえにだんだんそれに毒されて感染されていくか、ということを、どうやって子どもが最終的に兵士になっていくか、ということを描きたいと思ったんです。そして、また文学作品を映画化するに関しては、ある程度変化を加えることによって、却ってもとの作品(大江作品)の骨格やマトリックスに戻ることができて、もとの作品が持っている感動とか強さというのを表すことができると思ったのです。
『飼育』

©2011 TIFF

 

Q. どうしてこの作品に出ようと思われたのですか?

 

シリル・ゲイ(以下:ゲイ):私は、監督の「S21」(『S21:クメール・ルージュの殺人マシーン』)という作品を見たんです。これはカンボジアに関するドキュメンタリーですけれども、それでカンボジアに関して非常にコミットした監督であると知りました。その後監督に会って、彼は本(大江作品)の話をしてくれたし、そしてシナリオのことを話してくれました。とても感動して、人間の条件について疑問を持つ、ということを私自身もしまして、ぜひ出演したいと思いました。やっぱり映画にしても本にしても、本当に人間の生きる条件ということに関する作品に出会うと、それは今の私たちの生きている時代とすごく通じるものがあって、意味をもつようになるんですね。世界の中で生きている市民の人間性について考えさせられる、良い作品だと思います。
『飼育』

©2011 TIFF

 

Q. 村の子供たちや大人たちは、全員、プロの俳優だったのでしょうか?

 

パニュ:この映画の中でプロの俳優というのは、クメール・ルージュのリーダーとシリルの2人だけなんです。ほかは村民なんですが、大変上手に演技をしていると思います。彼らは村に住んでいるので、本当に真実を体験しているわけですよね。それに対して、むしろプロの俳優たちが適応していかなければならないという撮影現場でした。

 

Q.彼らの表情、演技がとても良かったのですが?

 

パニュ:街の子供たちだったら、木に登ったり、水牛を捕まえたりとかできないでしょうし、学校に行っていない村の子供たちでもアーチスト的な能力や情熱を持っていて、役を演じるにあたってちゃんと自分の役柄を分析して体現できるということを証明していたと思います。彼らは日常はやさしい人たちで、主役の男の子なんかもいつもはとっても優しい子なんですが、映画の中では役として悪者を演じているわけなんです。

 

Q. 男の子のセリフで「戦争の中の連鎖から逃げられない」と言っていて、その後シリルさんに言うセリフが印象的だったのですが、大江氏の原作にあったのでしょうか?

 

フェスレー:これは映画化するときの脚色で、現実に即した内容にするため、リティー監督と一緒に考えて出てきたものです。原作にはないのですが、この言葉は大江の原作が持っている非常に精神的な強さとか感動と結びつくものだと思います。

 

Q. 子供たちに集団的に攻撃されるのは、実際、怖いものだったんでしょうか?

 

ゲイ:子供や若者が本当に暴力的に攻撃してくるというのは、非常に恐ろしいことです。というのは、コントロールがきかないからなんです。何が正しくて、何が正しくないかを彼らは意識をしていないで攻撃してくるから、この映画のシチュエーションのような状況では、そのカゴというか牢屋から自分が出たらどうなるんだろうと考えるんです。自分が痛いところを殴られたら、怒って衝動的に後で後悔するようなことをやってしまうんではないかと恐れていました。
 
飼育
 

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