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2012.05.10
[更新/お知らせ]
セイフィ・テオマン監督の逝去に寄せて

セイフィ・テオマン監督追悼
 
 トルコの新鋭セイフィ・テオマン監督が5月18日に逝去されました。モーターバイク事故のため4月から入院中でした。享年35。急な訃報に言葉もありません。
 
 1977年生まれのテオマン監督は、ポーランドに留学して国立ウッチ映画大学(ワイダ、ポランスキー、スコリモフスキらを輩出した名門)に学び、卒業制作の短編『アパート』(04)で早くも注目されました。長編第1作『夏休みの宿題』で2008年のTIFFアジアの風に参加、第2作『われらの大いなる諦め』も昨2011年のアジアの風で上映と、TIFFとはデビュー早々から深い絆で結ばれた方でした。
 
 地方都市に住む内気な小学生がひと夏の間にさまざまなふれ合いを体験し、ささやかな成長を遂げる姿に優しく寄り添った『夏休みの宿題』は、21世紀に入って快進撃を続けるトルコ映画界からまたひとり、新たな才能が生まれたことを示していました。来日した監督の口から、「もっとも影響を受けたのは、ホウ・シャオシェン(侯孝賢)とエドワード・ヤン(楊徳昌)らの台湾ニューウェイブ」という言葉を聞いたとき、なるほど主人公のアリ君は「トントン」と「ヤンヤン」の後輩だったのかと腑に落ちたものでした。
 
 2作目にして早くもベルリン国際映画祭のコンペに入った『われらの大いなる諦め』は、冴えないアラフォー男ふたりが同居する家にキュートな女子大生が居候として加わったことから、ほんの少しずつ化学反応が生じ、三人の関係が変化していくありようを淡々と提示します。舞台の大半は室内で、語り口は静謐にしてドライ。食卓での会話と視線の組み合わせだけで観客を静かに魅了する手腕は見事としか言いようがありません。もういちど台湾映画の例に引きつけるなら、本作はまるで『エドワード・ヤンの恋愛時代』(94)、『カップルズ』(96)に直結するような趣をもっていて、テオマン監督はどうやらホウよりもヤンに近い資質をそなえた作家になりつつあるのではないか、と感じていたところでした。やはりテオマン・ファンを自認するTIFFコンペ部門の矢田部吉彦ディレクターと「この監督は<愛すべきダメ男映画>の巨匠になるかもしれないね」と語り合ったのを思い出します。
 
 昨年にはプロデューサー業にも乗り出し、「あふれるほど沢山の企画のアイデアがあるんだ」と目を輝かせて語ってくれたテオマン監督の急逝は本当にショックで残念ですが、『夏休みの宿題』『われらの大いなる諦め』を日本に紹介できたことをTIFFの一員として誇りに思います。
 
 心からご冥福をお祈り申し上げます。
 

石坂健治(TIFFアジアの風プログラミング・ディレクター)

 
 
セイフィ・テオマン監督

©2011 TIFF

 
『夏休みの宿題』作品詳細ページ
『われらの大いなる諦め』作品詳細ページ
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