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2011.10.29
[イベントレポート]
この作品を通じて、もっと子どもに目を向けて欲しいと伝えたかった。――10/28(金) アジアの風『嘆き』Q&A

10/28(金)アジアの風部門『嘆き』のQ&Aが行われ、モルテザ・ファルシャバフ監督、プロデューサーでもあり、脚本、美術も手がけたシャドメ・ラスティンさんが登壇しました。

©2011 TIFF

 

モルテザ・ファルシャバフ監督:皆さん、はじめまして。この映画が私の初めての長編映画となります。自分でも辛抱強くないと見られない映画だと思っていますので、最後までご覧いただきありがとうございます。
 

シャドメ・ラスティン・プロデューサー:本日皆さんにお会いできたことを、とても光栄に思います。ご覧いただきありがとうございます。
 

左からモルテザ・ファルシャバフ監督、シャドメ・ラスティン・プロデューサー
©2011 TIFF

 

司会:先ほど監督から、辛抱強くないと見ることができないというようなお話がありましたが、確かに映画が始まったときに「これはどうなっているのかな?」と、皆さん思われたのではないでしょうか。監督は1986年生まれということでとてもお若くていらっしゃるのですが、一体どういう着眼点で構想を思いついたのか教えていただけますか?
 

ファルシャバフ監督:この作品は、3年前にアッバス・キアロスタミ監督のワークショップに参加した際に撮った短編映画「風は好きな場所で吹く」を、長編映画化したものです。そのワークショップでキアロスタミ監督にテーマを与えられ、2ヶ月間アイデアが何も浮かばず、どうしていいか分からずにいました。
ある日兄と旅行に出かけ、色々と議論をしていました。その時車がトンネルに入り、互いの顔を見て話すことはできなくなりました。暗闇の中ではどうやって会話をしたらいいのか。結局私たちは、沈黙してしまいました。
そのことから、人間は環境や状況によってすべきことが異なるということに気がつきました。その時短編映画のアイデアが浮かび、その後この作品で賞をいただきました。
 

モルテザ・ファルシャバフ監督
©2011 TIFF

 

Q:キアロスタミ監督のワークショップで学んだということですが、夫婦が車の中で喋る時、正面から見据えるシーンがありました。そのシーンを見て『桜桃の味』を思い出しました。キアロスタミ監督から影響を受けたと感じることはありますか?
 

ファルシャバフ監督:確かにキアロスタミ監督のワークショップに参加していたので、何らかの形で自然に彼の影響を受けていると思います。映画の中にもその影響が出ているかもしれません。ひとつだけ付け加えると、影響は受けていますが、キアロスタミ監督の映画そのものを真似した訳ではありません。影響を受けたことが、無意識のうちに映画のところどころに現れたのではないかと思います。
 

Q:とても興味深い映画をありがとうございました。私は日本語対応手話を勉強していて、似ているものがあるか真剣に見ていたのですが、同じような動きが沢山あって「手話は世界共通。」だと思いました。ご夫婦役のお二人についてですが、見ていてドキュメンタリーではないかと思ってしまうほど自然だったのですが、あのお二人はプロの俳優さんでしょうか?
 

シャドメ・ラスティン プロデューサー:お二人はプロの俳優さんではありません。確かに手話というのは各国で共通性はあると思います。この作品に聴覚障害の夫婦を選んだのは、手話を使用することにより世界中で共通する部分があると思ったからです。
 

シャドメ・ラスティン プロデューサー
©2011 TIFF

 

Q:車のシーンが手話で会話が成り立っているのは理解できるのですが、カメラが車から離れて撮影しているシーンも会話が続いていました。普通口元が写っていないのに会話が続いくということは、不思議に感じるはずなんですが、あまり違和感がなかった。これはもの凄く上手なテクニックなのではないかと思いました。このシーンが脚本の段階で設定されていたのか、撮影を進めるうちに思い浮かんだのかを教えてください。
 

ファルシャバフ監督:この作品は、全て脚本の元に撮影しています。ご覧いただいた後なのでお分かりいただけたと思いますが、字幕に頼らないと分からない、風景を見ているだけでは分からない作品です。きっと、今までにない感覚が残ると思います。冒頭のシーンは、画像がない字幕だけの映像を見てもらい、ご自身で考えて欲しかったのです。
 

Q:とても興味深く拝見しました。私の母が手話の資格を持っていて、子どもの頃から聴覚障害の方に接する機会が多くありました。こういう映画をずっと待っていたように思います。斬新な手法ではありますが、同時に違和感を感じない映画だと思いました。手話で映画を進めていくという方法は、監督や脚本家の方の中で言語のコミュニケーションについて映画を通して伝えたいことがあったのでしょうか?
 

ラスティン・プロデューサー:そうですね。言いたいことが沢山あるのに上手く伝えられなかったりしますよね。聴覚障害の方を選んだ理由は、この二人を通して人と人とのコミュニケーションの難しさを伝えたかったからです。
 

ファルシャバフ監督:ありがとうございます。お話を聞いてとても嬉しく思いました。この話をお土産としてイランに持ち帰りたいと思います。最高のプレゼントです。
 

Q:手話で物語が進むという手法が、非常に刺激的で最後まで五感が全開になるような気持ちになりました。ありがとうございました。
夫婦が会話している内に口論になるシーンがありました。日本語の場合は聾者の方が言葉を発すると、かなり注意深く聞いていないと理解できないのですが、そのシーンで彼らが発する言葉は、耳の聞こえる少年に理解できるような明瞭な言葉なのでしょうか?
 

ファルシャバフ監督:彼には全て理解できます。大人は、子どもには分からないだろうと、彼らを馬鹿にすることがよくあると思います。しかし実際はそうではなく、大人が思う以上に子供というのは残酷で、我がままで、賢いところがあると思っています。もう少し子どもに目を向けて欲しいと、この映画の中で伝えたかったのです。
 

司会:お二人の今後の予定について教えてください。
 

ファルシャバフ監督:次の作品も、ラスティン(プロデューサー)や、キアロスタミ監督の意見や力を借りて映画を作りたいと思っています。今考えているのは、冬と春のシーンを使用した映画を作りたいと思っています。まだどちらにするのか悩んでいます。
 

ラスティン・プロデューサー:私は、今のイランの若い世代に力を入れています。、この場にいることができてとても光栄に思っています。また、ここ日本でキアロスタミ監督や、多くの日本の監督にお会いできて大変嬉しく思っています。
 

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