Home > ニュース > 今、日本に起きていることが、世界に伝わってほしい。――10/29(土)TIFF ARIGATO プロジェクト 震災を越えて『ギリギリの女たち』:舞台挨拶、Q&A
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2011.11.01
[イベントレポート]
今、日本に起きていることが、世界に伝わってほしい。――10/29(土)TIFF ARIGATO プロジェクト 震災を越えて『ギリギリの女たち』:舞台挨拶、Q&A

第24回東京国際映画祭は東日本大震災を受けて、「TIFF ARIGATO プロジェクト 震災を越えて」と称した取り組みをしています。10/29(土)はそのひとつとして、小林政弘監督の『ギリギリの女たち』が上映されました。宮城県気仙沼に家を所有する小林監督がその家をロケ地に、バラバラの人生を歩んできた3姉妹が、震災を機に再会を果たしたことから生まれる愛憎劇を描いた本作。上映前には次女役の中村優子さんと三女役の藤真美穂さんが舞台挨拶が、上映後には小林監督も加わった3人との質疑応答が行われました。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
舞台挨拶ではまず、拍手に包まれ場内に呼び込まれた藤間さんが、「胸がいっぱいで・・・・・・」と、緊張と感激が伝わるやや荒い息づかいとともに口を開きました。「今日、ここにいらっしゃらない長女役の渡辺真起子さんから『がんばってきなさい』『泣くな』と言われたのにもう泣きそうなのですが(笑)。これは、3・11、震災後を描いた映画です。今でも被災地は被災地のままですので、この映画を観た方に何かが届き、これを機会に、いろいろなことを考えていただけたらと思います」(藤真)。続いて中村さんは、「『ギリギリの女たち』は、今日が出発の日です。その船出を、こんなにたくさんの温かい眼差しに見届けていただけることがとても心強い。目の前に広がる大海原は、とても清々しくて、柔らかな水面を湛えているように見えます。誇らしいような、気持ちがいいような、嬉しいような気持ちでいっぱいです」と詩的な言葉で喜びと緊張を表現しました。舞台挨拶では、以下のようなやりとりが交わされました。

 
司会者:開会式でグリーンカーペットを歩いた感想は?

 
中村さん:グリーンカーペットはとても長い。あんな風に、お客様と直に関わることはそうそうないので、とても楽しませていただきました。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

藤真さん:長い長いカーペットは、特別な雰囲気でした。何より、映画ファンがこんないたくさんいることに感激しました。私は長女と次女を演じたお二人のファンなので、一緒に並んで歩けることが素敵な時間でした。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
司会者:東京国際映画祭で出演作が上演されることをどう思いますか?

 
中村さん:国際映画祭は、いろいろな国の人に作品を観てもらえる良い機会です。特にこの映画は、日本で今起きていることに目を向けていただくことに繋がります。それを抜きにしても、これは家族の物語なので、国を問わず、世界共通で通じるものがあるのではないかと思います。
 
藤真さん:レセプションに顔を出させていただんですが、海外の人はもちろん、日本の方も全国からいらしていて、そこでいろいろなお話をさせていただきました。どこの映画祭に参加してもそうですが、本当に刺激をもらえます。そして、いろいろな監督さんや作品と出会うことでやる気にさせてもらえる、とてもありがたい場所です。

 
司会者:心身ともにハードな撮影だったと思います。そんな現場を共にした今、お互いにどんな女優だと思いますか?

 
中村さん:撮影前から、妹役は藤真さんだということは知っていました。10年くらい前ですか、ちょっとだけ共演させていただいたことがあり、その後はたまに顔を合わせる程度の関係性でした。だから藤真さんと聞いたときは「あ、彼女か!」と(笑)。「10年前は美人さんだったけれど、どうなっているんだろう?」と思ってネットで調べたら、美人さんのままでした。3週間、彼女と真起子さんの顔を思い浮かべながら、毎日毎日脚本を読みました。そして現場に入ったら、妹にしか見えませんでした。私は男兄弟がいてすごく楽なので、妹なんかいらないんですけど、妹っていいもんだな、かわいいな、と感じられました。それは、人なつっこくて、いじると泣いてしまう、彼女の素直な性格によるところが大きいと思いますが。気を遣ってくれる優しい末っ子がいてくれたおかげで、ひどい次女として、自由に演じさせていただくことができました。
 
藤真さん:初めてお会いしてから10年間、ちょこちょことお会いするたびに、いつでも優子さんはフラットでした。ブランクをまったく感じさせず、いつも同じように接してくれて、私はそれがすっごく嬉しくて、ブログに書いたりしてました。そんなことは優子さんはご存知ないと思いますが(笑)。真起子さんが映画界における伝説を持ちすぎていて、私はちょっと緊張してしまったんですね。そこで優子さんがクッションになってくださって、心強かったです。撮影中はいじめられ、いじられ、泣かされていましたが、それが本当にありがたいし、幸せな時間だったんだなと、後から実感しました。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
 上映後は小林監督、観客と一緒に映画を鑑賞した中村さんと藤真さんの3人を迎えてのティーチインが行われました。監督の意向で、司会者からの質問はなく、最初から観客からの質問を受け付けたところ、ほぼ満席の場内には積極的な挙手が見受けられました。

 
Q:冒頭、30分以上の長回しが、まるで演劇、舞台のようでした。他のシーンも、長回しが多かった。その意図を教えてください。

 
小林監督:最近カット割りをしなくなったんです。現場でも、みんなに「なるべく手抜きをしてつくろう」と言ってます(場内笑い)。自分で脚本を書く段階ではひとつひとつカット割りを組み立てていますが、現場に行くと、いくつかのシーンを跳ばして撮ったほうが面白くなるのかなと思い、こうなりました。冒頭のシーンは台本で言うと27ページくらいあるんですけど、「ここまで1カットでいけるかな」と思って撮ってみたら、何回かやってみたけれど、1日目はうまくいかなかった。助監督に割った方がいいか、長回しでいくか、撮影を終盤に回すかといった相談したところ、役者さんがみんな長回しでの芝居がうまくいかなかったことに落ち込んで、宿泊場所に帰ってから特訓をしているという話を聞きました。これは翌日に撮らないとみんなの自信がなくなってしまうかもしれないと思い、翌日に撮った芝居が映っています。そこから全体のタッチや映画としての流れができたので、徹底して長回しをやってみました。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
Q:小林監督の演出についてどう思いながら演じましたか?

 
中村さん:まあ、恐ろしかったです(場内笑い)。縮み上がるというのはこういうことかというのを実感しました。小林さんはちょっと、天性の女優みたいなスイッチの入り方をするんです。3秒前まで笑っていたのに、いきなり稲妻のような声が飛んできたり。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
藤真さん:冒頭の長回しで、私が出るのは最後の10分間ですが、1日目は私の存在がすっかり忘れられていて。ずっと家の外で小さくなってました・・・・・・。

 
Q:最後のシーンは涙が出るほど素晴らしかったです。ところで、監督のご家族や親戚の方は、気仙沼で無事でしたか?

 
小林監督:僕は気仙沼の出身ではないので、家族や親戚は別の場所におり、無事です。映画に映っている家が僕の家なんですが、わりと高台なので、津波の被害はなかったです。ただ、近所の人たちの親戚や兄弟はずいぶん被害に遭って、今もいろいろなつらい思いを引きずっていると思います。そういう場所で撮りました。

 
Q:観客と一緒に上映を観るという体験は、お二人にとってどういうものですか?

 
藤真さん:不思議な体験です。私は周りを構わず泣いていました。ね(と、中村さんに笑いかける)。
 
中村さん:私は映画祭のなかで、実はこの時間が一番好きです。今日の上映もどうしてもみなさんと一緒に観せてほしいと、前からお願いしていました。笑い声や、空気が変わる瞬間を直接感じられるのはとても怖くもありますが、これ以上ない幸せです。とても良い時間を過ごさせていただいています。

 
Q:舞台挨拶で、藤真さんが渡辺真起子さんについて「伝説がたくさんある」とおっしゃっていたのが気になります。どんな伝説があるのか、エピソードを教えてください。

 
藤真さん:欠席裁判になってしまうので、申し上げにくいのですが・・・・・・(笑)。私はいろいろな伝説を聞いていて、休み時間になると、真起子さんを質問攻めにしていたんですね。ひとつどうしても聞きたかったのは、真起子さんはフィルムを観ただけでどこのメーカーかわかるという伝説が本当かどうか。それをご本人に質問したところ、「(モノマネしながら)何それ。噂? わかるわけないじゃん」と言われました。その答え方もかっこいいんです! あとは内緒です(笑)。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
Q:3姉妹がそれぞれに抱えているものがぶつかり合って、ときには憎み合ったり、ときには心配し合ったり、観ている側としてはちょっと困惑するものがありました。お姉さんがだんだん壊れていくのはわかったのですが、3姉妹のなかで一番まともな方はどなただったんでしょうか。

 
小林監督:(中村さんと藤真さんから監督が答えるよう促され)俺? まともはいないんじゃないですか。次女がまともといえばまともですけど。
ギリギリの女たち

©2011 TIFF

 
中村さん:撮影前にそう言われました。「比較的、安定はしている」と。あくまでも「2人と比べて」ですが(笑)。橋渡しになる役なのだなと解釈して撮影に臨みました。

 
Q:タイトルのインパクトがとても強く、それだけでこの映画を観ることに決めました。このタイトルにした理由はありますか?

 
小林監督:昔、ペドロ・アルモドバルの『神経衰弱ぎりぎりの女たち』という映画がありましたが、そこからとったわけでもありません。神経衰弱ぎりぎりではなく、神経衰弱を通し越している女の話を書いてみようと思った(笑)。英語のタイトルは“瀬戸際の女たち”という意味ですが、瀬戸際のシチュエーションに置かれた女3人の話を書いてみたら、このタイトルを思いつきました。

 
Q:監督に質問です。9・11と3・11、原発事故について映画の中で言及しています。その意図は?

 
小林監督:不幸にもそういう時代を生きてきたというだけのことで、特に関連性はありません。

 
Q:監督、最後に一言、メッセージをお願いします。

 
小林監督:この作品はまだ公開が決まっていません。来夏には上映されると思います。それに向けて、観て気に入った方は、Twitterなどで発信していただいて、公開に結びつけられたらと思います。どうかご協力をお願いいたします。今日はありがとうございました。
 
 
ギリギリの女たち

TIFF ARIGATOプロジェクト

KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第23回 東京国際映画祭(2009年度)