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2011.11.01
[インタビュー]
【公式インタビュー】 コンペティション 『J.A.C.E./ジェイス』

公式インタビュー コンペティション 『J.A.C.E./ジェイス
 

メネラオス・カラマギョーリス監督、アルバン・ウカズさん
ジェイス

©2011 TIFF

 
東京国際画祭を通じて私が学んだことは、映画は本当に国際言語であるという事です
 
ギリシャ系アルバニア人の孤児が、ギャングによる束縛に抗いながら成長し、生きる術を見いだしていく一大叙事詩『J.A.C.E./ジェイス』。メネラオス・カラマギョーリス監督にとって13年ぶりの長編は、ポルトガル、オランダなどとの5カ国合作だ。タイトルロールにコソボ出身の俳優アルバン・ウカズを抜擢し、バルカン半島で現実に起こりつづけている子どもの人身売買、臓器売買などの問題をエンタテインメントに昇華させた。
 
『J.A.C.E./ジェイス』はカラマギョーリス監督にとって、1998年のテッサロニキ映画祭で新人監督賞を受賞した“Black Out”以来の長編となるが、構想は前作が終わった直後から持っていたという。
「私が住んでいるマンションにオデュッセウスというアルバニア人の子どもがいて、彼ととても仲が良かったことがひとつのきっかけです。ギリシャにとっては大きな規模の作品で、合作になったことでも時間はかかってしまいました」
主人公のジェイスは里親の両親を目の前で殺されて以降、ギャングに捕らえられながらも必死で身を守り、生きるために逃避行を続ける。人身売買、臓器売買といった社会的な題材を扱っているが、製作において障害はなかったのだろうか。
「ギリシャは犯罪率が非常に低い国ですが、バルカン半島全体でギャングの問題があります。それは国際的な組織で、子どもたちの人身売買は残念ながらずっと続いています。ただ、ギリシャでは自由に意見を言えて表現もできるので、作るうえで特に問題はありませんでした。この作品も国立の映画センターが支援しています。ついこの間までは、ギリシャもお金が豊かにありましたから」
幼少期、少年期、青年期とジェイスは3人の俳優によって演じ分けられている。青年期を担当したアルバン・ウカズは実に9カ国でオーディションが行い、その最後の地、サラエボで見つけた若手だ。過去の出演作は見ていなかったが、本人と会って確信を得たようだ。
「キャスティングは非常に困難を極めたけれど、アルバンは理想的でした。彼は多彩な表現方法を持っていて、それはあるワンシーンを演じてもらうことで確かめることができた。彼の出演作を見ていないことはそれほど重要ではなくて、実際に彼がこの作品に出て何ができるかを試せたことがすごく大きかった。彼にとって言語が違うギリシャで演じることは大きなチャレンジだったと思うが、自分なりにコミュニケーションの方法を見つけていた」
ジェイス

©2011 TIFF

 
ウカズはコソボの首都プリシュティナ出身だが、祖国の紛争終結後、映画祭で招待されたサラエボが気に入り、以来、同地を中心に俳優活動を続けている異色の経歴の持ち主だ。
「1999年のNATOの爆撃によってコソボ紛争は終焉を迎えました。私は当時、プリシュティナの演劇学校の1期生で、自由を勝ち取ったのだと血気盛んでしたが、思っていたように社会が急変するわけではなく、その気持ちはけっこう短い期間でなえてしまったんです。そして2001年に、映画祭のゲストでサラエボに行ったときに、これからここに住んでみたいと思って、演劇学校に入ってまた勉強し始めました。今回、東京に招待されたから、今度は日本に住みついちゃうかもしれません(笑)。」
ジェイス

©2011 TIFF

ウカズは、これまで数本の映画や短編に出演してキャリアを積んできたが、5カ国合作というビッグ・プロジェクトへの出演は初めて。しかも、2人の子役を引き継ぐ形で演じなければならない。
「新しい役がくると常に、その中に自分自身を見いだせるかどうかが重要だと思っています。そういう意味では2人の子役と一緒にリハーサルを重ねられたことが大きかった。特に幼少期を演じたソーマ・バデカスは、この映画の最大の貢献者。彼の演技を見ていろいろと盗もうと、撮影現場に行って一所懸命見ていました。彼から一番勉強させてもらいましたよ」
加えて、ジェイスは父親が死ぬ間際に発した「余計なことはしゃべるな」という“遺言”をかたくなに守っているため、ほとんどセリフがない。いわゆる表情だけでの演技が求められたが、そのあたりの苦労はどうだったのだろうか。
「セリフのない役だから楽だな、ギリシャ語を勉強しなくていいやと軽い気持ちでいたけれど、とんでもなかった。僕はギリシャ語をしゃべれないけれど、相手のセリフの内容を分かったうえで、しゃべらない演技をしなくてはいけない。セリフがあると、ただ丸暗記すればいいだけなので簡単だけれど、相手の言っていることを分かるということは、単語もアクセントもすべて聞き取れなくてはいけない。だから、かえって大変でした(苦笑)」

 
カラマギョーリス監督:彼は基本的に耳がいい。脚本にある表現方法や言葉も、ひとつひとつのセンテンスとしてちゃんと理解していた。多くの人がジェイスは沈黙の人だというが、それは違うと思う。アルバンは、人との距離を置き、自分がよく理解したうえで納得してから行動を起こす演技をしている。ギリシャ語もある程度しゃべれるようになったと思う。昨日もバーで飲んでいたときに、僕が今までに使ったことのないギリシャ語をしゃべったけれど、けっこう理解していたしね。」
 
監督のお墨付きが出て、ウカズも相好を崩す。『J.A.C.E.』への出演、そして東京国際映画祭のコンペティション部門に選出されたことは大きな自信になったようだ。
「劇場映画でメインのキャラクターを演じるのは初めての経験で、カメラの前でどう振る舞えばいいのか、そういったことを学べる場でもありました。しかも、ジェイスは特別でユニークな役。それが東京国際映画祭という大きな舞台で上映されたことで、自分のキャリアにおける新たなスタート・ポイントになればいいと思っている」
 
カラマギョーリス監督も東京でのワールドプレミアに、確かな手応えをつかんだ様子。惜しくも賞の対象からは漏れたが、満足げな笑顔で振り返った。
「本当に心から思っているのは、観客の皆さんとの質疑応答で、すべての質問が非常に作品を理解して気に入ってくれた感じられたことが光栄でした。私の作品が、皆さんに語りかけるものがあったということを感じたのです。しかも、言語や文化が異なる東京で、これだけの感動を皆さんに与えることができたのは大きな喜びです。東京国際画祭を通じて私が学んだことは、映画は本当に国際言語である、人々をつなぐものであると。別の視点でいえば、グローバリゼーションは消費、生産物、企業、ビジネスといったことだけではなく、文化におけるグローバリゼーションもあって、そのひとつのいい側面をこの映画が示すことができるたではないでしょうか」
 
聞き手:鈴木 元(映画ジャーナリスト)
 J.A.C.E./ジェイス

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