第24回東京国際映画祭の各賞を発表するクロージングセレモニーがTOHOシネマ六本木ヒルズ・スクリーン7で行われました。タキシードやドレスに身を包んだゲストや来賓、たくさんのプレスが詰めかけた会場で、いよいよ最高賞の東京サクラグランプリをはじめとする受賞作が発表される時が訪れました。ジョン・カビラさんと久保純子さんの司会で、セレモニーが進行します。
まずは、3年前に新設された「TOYOTA Earth Grand Prix」の発表です。本賞は、エコロージー、地球への関わり方、自然と人間の共生などをテーマに持つ作品の中からもっとも優れた作品に与えられます。今年は優秀な作品が多く、急遽、審査員特別賞が設けられ、ドイツ映画『ハッピー・ピープル タイガで暮らす一年』が受賞しました。監督のドミトリー・ワシュコフさんは母国語のロシア語で、4時間の長編を世界で上映するために短いバージョンを作ろうとワシュコフさんを説得した、共同監督のヴェルナー・ヘルツォークさんに謝辞を述べたあと、「Q&Aでも言いましたが、日本人はこのような高度な文明を発展させながらも、自然への繊細さを忘れない人たちだと思います」と持論を述べたところ、場内からは拍手が起こりました。
そして、グランプリはインドネシア映画『鏡は嘘をつかない』へ。監督のカミーラ・アンディニさんは「この映画は海洋民族のバジョ族の人たちを描いた作品です。彼らは環境の変化に苦しんでいて、そんな彼らを見ることは私にとっても苦しかった。この映画がTIFFで上映されて彼らの状況を知って貰えることに意義があると思います」とメッセージを伝えました。審査委員の品田雄吉さんは「この2作品は自然と人間がどうつきあっていくかを、力強く、詩情豊かに描いたことが評価に繋がりました。他にも楽しい作品や考えさせられるものなど、それぞれ興味深かった。今後、どんどん充実していく賞だと予感しています」と総評を述べました。
「日本映画・ある視点」部門の作品賞は、『ももいろそらを』が受賞。本作が長編第一作となる小林啓一監督は、驚きを隠さずに「夢じゃないですよね?」と喜びを表現しました。「昨晩、『もしも賞をもらったらどうしよう』とお風呂でいろいろ考えたのに、緊張して何も出てきません(笑)。すごく重いバトンを受け取った心境です。これからも映画作りを頑張って、次にこのバトンをもらう人へのプレッシャーにしたいです。頑張ります」。審査委員の柏原寛司さんは「今年は独りよがりの作品が多かったように感じました。観客の想像力をかきたてる作り方をするのは映像作家として当然ですが、自分たちがやりたいことを観客に伝えることも必要です。その点で、『ももいろそらを』はバランスが一番良かった。映画は省略の芸術です。これからチャレンジする若い作家は、切り捨てるところを切り捨て、伝えたいことを入れ込んで、映画を作ってほしい。既成の作家にない、オリジナリティのある作家の登場を期待しています」と、エールを込めた総評を述べました。
「アジアの風」部門の最優秀アジア映画賞は、近年、インディーズ映画が活況にあるフィリピン映画から、『クリスマス・イブ』が受賞しました。監督のジェフリー・ジェトゥリアンさんは公式上映後のQ&Aに出席後、授賞式を待たず帰国しなければならなかったため、喜びの言葉をビデオ・メッセージで届けてくれました。「東京は大好きな街。気持ちは会場にいます。作品をつくり続けてまた戻ってきたいです」という言葉の後に、ダブルピースで満面のスマイル! 場内が拍手と笑いに包まれました。
審査委員のフィリップ・チアさんは「受賞作は一晩の出来事のなかに、家族について、植民地後の国の歴史について、そして宗教的偽善を描いています。非常にナラティブ(語り口)が良かった」と受賞理由を述べました。また、この部門では3人の審査員それぞれがスペシャルメンションを授与。深田晃司さんは『TATSUMI』(エリック・クー監督)、中山治美さんは『ラジニカーントのロボット(仮)』(S・シャンカール監督)、チアさんは『鏡は嘘をつかない』(カミーラ・アンディニ監督)を選出しました。
いよいよコンペティション部門の発表です。出品された15作品がスクリーンで紹介された後、まずはすでに発表されている観客賞の受賞作『ガザを飛ぶブタ』のシルヴァン・エスティバル監督と俳優のミリアム・テカイアさんが登壇。エスティバルさんは「映画は現実を変えられない。でも、観客に希望を与えられる」と、この映画祭のテーマ『信じよう。映画の力。』にも繋がるメッセージを投げかけました。
最優秀芸術貢献賞は、審査委員長のエドワード・R・プレスマンさん曰く「今年は非常にレベルが高く、選考が難しかった」ことから、2作品が受賞となりました。まず発表されたのは中国映画『転山』。監督のドゥ・ジャーイーさんは松葉杖姿で登壇すると、「TIFFの舞台はとても登りにくくて全身汗だらけです」とおどけて笑いを誘います。「審査員の皆さんにお聞きしたい。映画をきちんと勉強したこともなければこれ以外に撮ったこともない、ただの映画好きで夢しかない私に、本当に芸術貢献賞をくださるのですか?」というジャーイーさんの質問に、プレスマンさんは「この映画の精神は私達の心に届きました」と笑顔で返答。ジャーイーさんは胸に手を当てながら、大仰な台詞回しで「見る目がおありだ。ありがとうございます」と答え、再び場内の笑いを誘いました。「映画を1本撮ることは、様々な恐怖に向き合うこと。でも、一生懸命トライすれば恐怖は克服できる。頑張り続ければ夢が叶うことを教えてくれたみなさんに感謝します」と、この日一番ともいえる熱い挨拶を述べました。
そしてもう一本はアメリカ映画の『デタッチメント』が受賞。監督のトニー・ケイさんは欠席のため、ビデオ・メッセージが上映されました。歌手、シンガーソングライターとしても活動するケイさんはなんと、「撮影中に主人公の気持ちで作った」という曲を弾き語り! 異色のビデオメッセージに会場は多いに盛り上がりました。
最優秀男優賞は、特殊メイキャップ・アーティストのレイコ・クルックさんから発表されました。「15本の中に、世界の名優がひしめいておりました。一人を選ぶのはとても苦しかった。審査員のファン・ビンビンさんが『この人を落としちゃイヤ!』と言う場面があったほど(笑)。議論の末、首から上だけの演技を強いられながら素晴らしいエモーションを表現してくれた男優と、その相手役として、ロック・ミュージシャンのようなダイナミックな芝居を見せてくれた男優、この2人に賞をわかちあってもらうことになりました」という選考理由に続いて発表された受賞者名は、『最強のふたり』に主演したフランソワ・クリュゼさんとオマール・シーさん。彼らからは「いつか日本に、トロフィーを受け取りに行きたい」(シーさん)「最強のふたりのうちの1人であることを誇りに思います」(クリュゼさん)というメッセージが届き、代読されました。
“中国一の美女”と呼ばれる美貌の女優、ファン・ビンビンさんが発表するのは最優秀女優賞。「彼女が演じる役は難易度が高かったけれど、素朴でリアリティがありました。彼女の目から、役の人生が読み取れるような気がしました」という選考理由に続いて、挙げられた名前は『アルバート・ノッブス』(ロドリゴ・ガルシア監督)のグレン・クローズさん。1982年に舞台でアルバート・ノッブス役を演じて以来、彼女自身が30年近くかけて映画化にこぎ着けたとあって、ビデオ・メッセージでは「完成まで時間がかかった作品なので、感動もひとしおです」とその喜びを語っていました。
最優秀監督賞は、『プレイ』のリューベン・オストルンド監督が受賞しました。本映画祭で『ギリギリの女たち』が上映された小林政広監督が、「すばらしい作品です。個人的には、最高賞をあげたかった。確かな演出力と、作家性を持った監督だと思います」と寸評を述べました。登壇したオストルンドさんは来日したばかりで、今日が映画祭初日とのこと。「金曜日、学校にいる娘に電話をかけて、『東京に行くか?』と聞いたら大喜びしていました。彼女は東京についていろいろ下調べをしてきたのに、時差ボケになってしまい、今、ホテルで寝ています(笑)」と裏話を語ってくれました。そして「この映画には11歳から14歳まで、8人の子役が出ています。大人でも難しい役なのに、素晴らしい演技をしてくれました」と謝辞を述べました。
審査員のキース・カサンダーさんが登壇し、「残すところあと2作です。非常に接戦でした。この賞が実質2位になります」と、審査員特別賞を発表しました。「ほぼ1位です。すばらしい作品です。若い、日本の監督です」と発言したところで、場内からは大きな拍手が起こりました。壇上には、『キツツキと雨』の沖田修一監督が呼び込まれます。沖田監督は「TIFFのコンペティションに日本映画が1本しか出品されないということは、大きなプレッシャーでした。周りからは『頑張ってください』と言われるんですけど、『映画はもう完成しちゃってるから頑張りようがないよなあ』と……(笑)。それでも上映が本当に楽しみでした。お客さんが笑ってくださったという話を聞くととても嬉しくて、それだけで十分だと思いつつも、こういう場に来るとやはり無心ではいられませんでした」と、受賞までの落ち着かない心情を吐露しました。その後は映画製作に関わった人たちに感謝を述べようとするもうまくまとまらず、「えーーーーーー、ありがとうございました(笑)。またここに帰ってこられるようにがんばります」と今後の映画製作への意欲を表しました。
いよいよ東京サクラグランプリの発表です。受賞作は、最優秀男優賞も受賞したフランス映画『最強のふたり』! 共同監督であるエリック・トレダノさんとオリヴィエ・ナカシュさんからは「今回の受賞で、この作品がユニバーサルな力を持っていると、改めて自信をもちました。フランスでは2日後に公開されます。主演俳優2人と僕らでパリを中心にPR活動中なので、日本に行けず残念です。でも、日本公開時には必ず東京に宣伝しに行きます。これは約束以上の責任です。Thank you! Thank you! Thank you! Tokyo!」というヴォイス・メッセージが届きました。審査委員長のプレスマンさんは、コンペティションについてこう総評しました。「映画は寺院であり、教会であり、その時代を象徴するものです。依田さんをはじめ、スタッフの皆さんは、今年の映画祭を実行するのは本当に大変だったと思いますが、素晴らしい映画祭になったと思います。今回、『プレイ』『ガザを飛ぶブタ』『最強のふたり』など優れた作品に見られた顕著な傾向は、移民と移民の、文化や階級のぶつかり合いや混沌をテーマにしていたこと。そのなかで『最強のふたり』は、2人のまったく異なる人物がぶつかり合いながら調和と喜びを見つける過程を描いていました」
<
すべての受賞作品が発表されて、TIFFの依田チェアマンが映画祭のシンボルカラー、グリーンのタキシード姿で登壇し、映画祭を振り返りました。「3・11以降、今年は非常に苦労いたしました。例年でしたらコンペティションのゲストのみなさんは最終日までいらっしゃるのですが、それも少なく、諸事情で来日しない方も多かった。でもみなさんからのビデオ・メッセージで作り手からの熱い思いが伝わったと思います。そしてフィナーレを無事に迎えられたことを嬉しく思います。2012年は25回の記念すべき年になります。作品力は確実に向上しておりますので、今後もご協力をよろしくお願いいたします」。そして審査員と受賞者がステージに上がり、フラッシュの光と拍手に包まれて、クロージングセレモニーは幕を閉じました。