Home > ニュース > 【公式インタビュー】 コンペティション 『転山』
ニュース一覧へ 前のページへ戻る
2011.10.31
[インタビュー]
【公式インタビュー】 コンペティション 『転山』

公式インタビュー コンペティション 『転山
 
ドゥ・ジャーイー監督、チャン・シューハオさん、リー・タオさん
転山

©2011 TIFF

 

苛酷な環境で撮影する私たちの姿は、テーマの「挑戦」そのものでした
 

台湾の青年が大陸に渡り、麗江からチベットの古都ラサを目指す『転山』。俳優やプロデューサーとしてキャリアを積んできたドゥ・ジャーイーの、監督デビュー作となる。
海抜3,000~5,000m級の山々を自転車で踏破する姿は、見る人に新鮮な驚きを与える。そこから爽やかに浮かび上がるのは、兄を失って心細げな若者が精神的に自立していく、とても普遍的な青春像だ。
 
――主人公のシューハオ(俳優と同じ名前)は、厳しい旅の過程で劇的に表情が変わり、別人のように逞しくなります。演出、ロケーション、俳優の努力の相乗効果でしょうか?
 
ドゥ・ジャーイー監督(以下、ジャーイー監督):その通りです。まずこの映画のロケは、俳優のチャン・シューハオに非常に大きな挑戦を求めるものでした。スクリーンに映るのは、彼の内面から生まれた感情でなければいけません。そのため、あらゆる手を現場で使いました。スタッフ全員に彼とは親しく言葉を交わさないよう伝えましたし、体力ギリギリまで彼を追い込みました。彼の退路を断ち、気持ちが高まって頂点に達するところまで持っていったのです。美術、衣裳、メイクなど各スタッフの貢献は当然大きいのですが、やはり決定的に映画に反映されているのは、撮影=試練の多い旅だった彼個人の内面の変化だと思います。
転山

©2011 TIFF

 
チャン・シューハオさん:監督やスタッフからのプレッシャーに加えて、忘れられないのは天候です。ロケ地の自然条件は本当に厳しかったのです。そのなかで僕にできることは、とにかく身体を壊さないよう注意することと、感覚を研ぎ澄ませてその感覚がとらえたものを表現することのみでした。
 
ジャーイー監督:映画の撮影とは、自分の恐怖心を克服していくプロセスでもあります。何がその原動力になるのか? それは希望です。このハードルを乗り越えればきっとより良い場面に出来るという。ですから、決して自分からは諦めてはいけない。現場で彼や私たちが体験した挑戦は、『転山』のテーマそのものなのです。
 
チャン・シューハオさん:撮影には、今まで自分が学んできたものと監督の教えを最大限に演技に活かすことで立ち向かうことができました。……要するに、監督も僕も負けず嫌いなのです(笑)。
転山

©2011 TIFF

 
――俳優経験者の監督らしく内面からの演技を求めつつ、大きな自然のなかに置かれた人間という、遠望の視点を併せ持っています。
 
ジャーイー監督:実は私自身が07年に映画と同じルートを自動車で旅しています。その時に実に多くのことを考えさせられました。これだけの自然の前で、人間はなんと小さな存在だろう、と。この映画ではぜひとも、そんな小さな人間が自転車と一体となって自然に対峙していく姿を描きたかったのです。
人物描写と風景の具体的なバランスについては、エグゼクティブ・プロデューサーのチェン・クォフー(陳國富)さんから大きな助力を得ています。かつて、台湾ニューウェーブを先導した監督のひとりでありプロデューサーでもあるクォフー氏は、特に編集の段階で適切なアドバイスを与えてくれました。それに彼と私が前もって共有していた認識は、人間は都会で暮らす時と大自然にいる時とでは感受性が全く変わるということです。映画のなかの風景は、すべて主人公の内面世界の反映だと考えながら撮影しました。
 
――クォフー氏とチャン・シューハオさんは台湾で、監督と村のシングル・マザーを演じたリー・タオさんは中国で、それぞれ活動されていますね。
 
ジャーイー監督:私が当初から望んだのは、『転山』を中国映画ではなく〈アジアの映画〉にすることでした。画質のカラー調整は韓国のスタッフに依頼しましたし、音楽は日本の大島満(ミチル)さんに手掛けてもらいました。アジアの映画人の力が集まれば、きっと世界に通じる映画になると信じています。自分の映画にプラスになるのならば、私は今後も台湾に限らず日本、韓国、シンガポールなど各国の人たちと共同作業するつもりです。
 
――原題の『KORA(コラ)』は、チベット語で巡礼という意味。中国や台湾には今、主人公のように行動する青年は多いのでしょうか?
 
ジャーイー監督:とても多いですね。この映画は08年に出版された、台湾の青年が実際にラサまで自転車で旅した旅行記を原作にしています。それに台湾に限らず中国でも、自転車、或いは徒歩、自動車で遠くまで行く若者が増えています。彼らは自然と対話しながらの旅を成し遂げ、貴重な経験を積むことを求めているのです。
 
――リー・タオさんが扮した、主人公たちを泊める農家のシングル・マザーは感情を内に秘めた女性でした。ご自身の役の解釈は?
 
リー・タオさん:私が演じたのは若いうちに夫を亡くし、その後も働き手として嫁入りした家を支える女性です。シューハオが再び旅に出るとき、彼女は心配とも羨望ともとれる複雑な表情を見せますよね。彼女は実は、愛情の芽生えた彼に留まってほしかったのだと私は解釈しています。でもそのためにシューハオを引き留めてしまったら、彼の夢は達成できなくなる。
 
――出発する自転車のハンドルを彼女が触り、指先が離れていくカットは印象的です。
 
リー・タオさん:彼女には彼といたい願いがあり、それでも、彼のために旅立たせる。そんな思いをあの場面で表現しました。彼女はきっと、とても大きな愛の持ち主なのです。
転山

©2011 TIFF

 
――辛い経験や困難の末にラサまで辿り着いたシューハオ。彼の目的達成を称えたところで終わらず、再び普通の生活に戻る姿まで描く点に深い余韻がありました。
 
ジャーイー監督:旅の後もシューハオの基本的な生活は変わりません。変わったのは、自分自身です。人間はいろいろなものに複雑に囲まれながら暮らしているようですが、突き詰めれば3つの要素に過ぎません。「天・地・人」です。それをシューハオは旅先で掴み、今までの暮らしに戻ります。しかし、そこではきっと何かが変わっているのです。
 

聞き手:若木康輔(ライター)
 
 転山

KEIRIN.JP本映画祭は、競輪の補助を受けて開催します。TIFF History
第23回 東京国際映画祭(2009年度)