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2011.10.31
[インタビュー]
【公式インタビュー】 日本映画・ある視点 『ももいろそらを』

公式インタビュー 日本映画・ある視点 『ももいろそらを
 
小林啓一監督
ももいろそらを

©2011 TIFF

 
『ももいろそらを』において、小林啓一監督は青春映画というジャンルを新たな視点で捉える。1960年代のヌーベルヴァーグを想起させつつ、取りとめのない物語は郊外を舞台に、いづみ(池田愛)とふたりの女友達を追うが、本作はモノクロで撮られている。
 
――なぜモノクロなのですか?
 
小林啓一監督(以下、小林監督):この映画は主人公が2035年に過去を振り返るという設定にして、過去の記憶を描いています。「今」は永遠には続かず、変化し続けますよね。その瞬間にすぐ過去になってしまう。「今」をちゃんととらえれば、自分らしく生きるということをはっきり認識できるのではないかという思いをこめてモノクロにしました。
 
――古典的な映画の撮り方をされているように思います。モノクロであることによって、見え方も大きく変わりますよね。
 
小林監督:先ほども言いましたが、今、見ているものは、すぐに過去になる。大げさな言い方かもしれませんが、死を意識することで初めて生が分かるということを、やんわりと伝えたいと思いました。新聞記事を作るため、「顔」を探して街を歩くという場面があります。モノクロにすれば普段の風景が変わり自分たちの街が新鮮に見えるように、ちょっと発想を変えれば新しい発見ができると私は考えました。
 
――新しい発見と言えば、この物語は10代の若者を描いていますが、日本の商業映画にはそのような作品がたくさんあります。そのなかで監督は青春映画というジャンルのどこに魅力を感じたのか、また、同ジャンルの他の作品にはないオリジナルの要素は何だと思いますか?
 
小林監督:高校生を主人公に選んだのは、この手の映画がいっぱいあるからこそ挑戦したいと思ったからです。これまでは青春時代をノスタルジックに振り返る作品が多く、なぜそういう映画を作るのか、と不思議に思っていました。特に青春の一瞬の輝きが描かれていることが多いのですが、私は若い頃の思い出を描く映画ではなく、若者にこんな生き方もあるのではないかと提案をしたい思いで作ったのです。主人公のいづみは自分の目でものを見ているけれど、映画の中では自発的に行動はしません。ですが、最後にほんの少しだけ自分で動きます。そういう小さな心の動きをラストシーンにもってきました。観客の心を打つかどうかは分かりませんが、その初めて起こしたアクションを通して、彼女の変化や成長を示したかったのです。また、他の青春映画は人との距離に焦点を当てているように思いますが、この映画ではどう行動し、発言するかといった自己表現をテーマにしています。
 
――3人の少女たちはとても自然に見えます。3人の友情と力関係に対して、監督はとても鋭い視点をお持ちだと思いました。脚本はどのように書いたのでしょうか。高校生に話を聞いたりしたのですか?
 
小林監督:完全にオリジナルです。ひとりで毎晩書いていました。高校生に話を聞くということはまったくなく、先にも言ったように私が思い描く女子高生像なので、比較的スムーズに書けました。それでも何度もリハーサルをしましたし、各シーン20テイクぐらいは撮りました。
ももいろそらを

©2011 TIFF

 
――主人公を演じた池田愛さんはプロの役者ですか?
 
小林監督:事務所に所属はしていますが、初めて演技をするに等しい人です。
 
――他のふたりは?
 
小林監督:どちらも初めてに近いです。薫役の藤原令子はグラビア撮影の経験はあったようですが、演技は初めてでした。蓮実役の小篠恵奈も初めてです。
 
――テイクも多くとり、何度もリハーサルを重ねたということですが、即興はあったのでしょうか、それとも台本に忠実に演じたのでしょうか?
 
小林監督:台本どおりに演じてもらい、即興はありませんでした。リハーサルの結果、しっくりこなかったセリフを撮影日の朝にそっくり差し替えることはしました。正直に言って、出演者たちはまだ即興ができるほどのレベルには達していないと思います。
 
――これまでの監督作とは全く違いますね。着想はどこから得たのですか?
 
小林監督:以前の作品は映画ではなくVシネと言われるビデオ販売用のものでしたから、自分で撮りたいと思った作品ではなく、経験を積むために撮ったものです。内容もあまり好きなものではありませんでした。その反発で自分の好きなように映画をとりたいと思っていました。Vシネ製作の経験で得られた最大のことはプロデューサーの原田さんに出会えたことです。
 
――作品を拝見して、昔の映画の影響を受けていると思ったのですが、影響を受けた監督、映画、スタイルについて教えてください。
 
小林監督:脚本作りでは、エンタテインメント性を外してはいけないと思っていて、そのことは黒澤明のモノクロ時代の作品から学びました。画面がギラギラしていて、キャラクターはいきいきしている。自分はまだそこまでのスケールにはもちろん達していないのですが見習いたいです。他に影響を受けたのは溝口健二で、彼は多くの女性を描いていますが、理想の女性像を描いている監督だと思います。そういうところで影響を受けています。ただ、長回しについては溝口を意識したことは全くなく、単純にお芝居の空気を切ることができなかったというのが理由です。
そういえば、この撮影に入る前、溝口健二の命日にプロデューサーの原田さんといっしょにお墓参りに行きました。ふたりでお線香をあげて映画がうまくいくようにとお祈りしましたが、帰り道で「溝口健二からは何も声が聞こえなかった」と私がいうと、原田さんが私のズボンのチャックが全開だったといい、「自分をさらけ出せという溝口健二からのメッセージではないか」と(笑)。ですので、この映画には自分の好みとか詰められるものを全力で詰め込んだと思っています。
 
聞き手:ニック・ヴロマン(映画ライター)
 
 ももいろそらを

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