海外のスターや、数々の傑作で知られる人気監督が舞台挨拶に立つことでも注目の「特別招待作品」。
25日(火)は『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』が上映され、『ベルリン・天使の詩』『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の名匠ヴィム・ヴェンダース監督が登壇しました。
『Pina~』は、ダンスと演劇の境界を軽やかに取り払って世界中を魅了し続けながら、2009年6月にこの世を去った天才舞踊家ピナ・バウシュの世界を、旧友であったヴェンダース監督が、アート系映画としては世界初となる3D映画として映像化したもの。「1985年に彼女の作品と出会い“こんなにも美しいものは他にはない”と、一夜にして人生が変わりました。“なぜこれを映画にしたいのか?”という理由などなく、ただ作りたいと思い続けてきました」という作品です。
「これから皆さんを、東京からドイツの小さな町……ピナが40年来活動した町へと連れて行きます」と挨拶したヴェンダース監督は、感銘を受けた翌朝に実際にピナさんに会い、「ぜひあなたの作品を映画にさせてほしい」と伝えて以来のことを振り返ります。
「彼女は会うたびに私に『映画を作りましょう』と熱心に言ってくれたのですが、私は逆に彼女の作品世界……それは観る者にその良さがどんどん蔓延していくようなものなのですが、それをどうやって映像化すればいいのかで悩んでしまったんです。どんなツールや演出術をもってしても、映画にできない。私と映像化の間に大きな壁があったわけなんです。なにかヒントがないかとあらゆるダンス映画を観ましたが、そこにも答えはありませんでした。彼女はずっと待っていてくれました。彼女が片方の眉を上げるゼスチャーで『(準備はできた?)』と聞くと、私は肩をすくめて『(まだ見つからない)』と答える。20年が経っていました」
そんな時に出会ったのが「最新のデジタル3D映画『U23D』だった」と監督は語ります。「これが答えだ! この方法なら、舞踊を捉えるのに必要な周りの空間まで撮影できる。まさに私に用意された“秘密兵器”だと思いました」という監督は、「エンドクレジットまで待ちきれなくて、その場ですぐにピナに『見つかったよ』と電話しました」とのこと。
その後、監督とピナさんは2年をかけて周到な準備を行なうのですが、いよいよ撮影が開始される2ヵ月前に、そのピナさんは亡くなられます。あまりの急逝に「誰も心の準備ができていませんでした」と振り返る監督は、その大きな喪失感から「映画化をあきらめました」と明かします。「しかし、彼女のダンサーたちは踊ることをやめなかった。この作品ができたのは、彼らのおかげ。ダンサーたちの決意に私が触発されたのです」と、映画が完成した理由を語りました。
また、ヴェンダース監督は、当日会場を訪れていた、本作に参加したダンサーのご主人や、楽曲を提供している音楽家の三宅純さんを紹介。親日家でもある穏やかな人柄で、会場をあたたかい雰囲気に包みました。
なお、ヴェンダース監督には、東京国際映画祭のほかに重要な目的がありました。
それは3月11日の大地震で大きな被害を受けた東北の映画館との約束を果たすことです。震災後世界中の映画監督に呼びかけた応援に、ヴェンダ ース監督は下記のメッセージを送りました。
「日本映画の巨匠達から多くを得て学んだ映画人として、そして日本文化の熱狂的なファン 、友人として、日本を襲った困難に対してこれ以上ないほど打ちのめされています。
他の多くの人たちと同様に、なすす べもなくテレビを見ながら、自分には何ができるのだろうかと自問しています。映画には癒す力があるはずです!よって、私はここで東北と関東 の映画館の皆さんにお約束します。可能な限り早くそちらに行って、映画を上映し(もちろん無料で)、地域の観客のみなさんと語りあおうと思 います。その時まで、みなさんのことを想っています。」
ヴィム・ヴェンダース監督