公式インタビュー
コンペティション作品『ホーム』
ムザッフェル・オズデミル監督
故郷をたどり祖国の環境破壊に問題提起する
ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『冬の街』で、2002年のカンヌ映画祭・最優秀男優賞を受賞したムザッフェル・オズデミル。初監督作品となる『ホーム』は主人公に自らの思いを投影し、科学技術の発達によって自然が失われていく故郷の風景を切り取る。それは憂いであり、トルコの環境破壊に対するプロテスタントでもあった。
――俳優としてキャリアを積んできましたが、クリエイターを志す気持ちはあったのですか?
ムザッフェル・オズデミル監督(以下、オズデミル監督):これからも新しい映画を作りたいとは思っていますが、クリエイターと呼ばれることはあまりうれしくありません。なぜなら創造するのは神であって、私たちは考案者にすぎません。
――主人公は監督の分身ですが、このテーマを選んだきっかけは?
オズデミル監督:1999年にトルコのコジャエリ県で大きな地震があった際、政府側は皆、責任を逃れようと自分を擁護していたんです。私は当時、緑の文化を守ろうという活動をしている雑誌で執筆していて、断層や故郷の土地に関する論文で権力者たちを追及していました。あらゆる建物はたいした管理もなく、悪質な状態でひどい都市計画が行われていたにもかかわらず、地震を断層のせいにしていたからです。だから、罪があるのは市長や大臣といった指導部であると言っていたのです。
そのころのトルコでは、3000もの河川に開発計画があると聞き、そういうカタストロフィの時期に映画や芸術は終わった、いい芸術は生まれないと感じていたので、10年ほど歯を食いしばって頑張りました。そしてようやく、プロテストが目的ならば製作が可能だと思いました。つまり、彼ら指導部は我々を故郷がなくなった思わせるところにまで連れてきてしまった。非常に静かな地域にまで開発プロジェクトの手が及んだため、こういう映画を作るために十分な理由ができたのです。
――それでは製作に当たり、政府から圧力がかかったのでは?
オズデミル監督:検閲があるわけではないので、そういうことはありません。ただ、完成した作品を見れば、政府側は私のことをあまりいい目では見ないでしょう。それは覚悟しています。今の(エルドアン)首相は民主化に重点を置いていますが、映画で描かれていることを否定はしないでしょう。投獄されることもありませんし、私たちを害のない行動者だと蔑むような目で見ているだけです。ただ真実、正しいことを描くわけですから、脚本には気を使いました。
――ロケ地で監督の故郷でもあるギュミュシュハーネには、よく帰省しているのですか?
オズデミル監督:この15年くらいは1年に1、2度は帰っています。それは山や古い橋、建物などを保護する活動のためです。
――勝手知ったる場所だから、撮影するポイントは明確だったわけですね。
オズデミル監督:私が普段から回っているところなので、一歩一歩すべて知っているわけです。山頂から岩を落とすシーンがありましたが、あそこはおじいさんの村なのです。
――そういうのどかな場所にも、ダムや水力発電所などの開発計画が及んでいると。
オズデミル監督:そうです。加えてギュミュシュハーネは金が豊かで、鈴や鉛などいろいろな鉱脈があります。だから、今もあちらこちらでボーリング作業をやっています。いくつか大きなプロジェクトがあって、毒物に汚染される工法で開発をしようとしているのがまずい。そもそも金は価値のないものであって、その価値は経済発展や資本主義によって作られてしまった。今は大規模にごっそりと掘り出されるようになってしまっている。それは自然に反することだし、罪でもある。商用化されてしまったことで人工的な価値が生まれたために、不必要なものまで採掘をするようになっているのです。
――演出上で留意した点は?
オズデミル監督:小津安二郎監督のような手法でいこうと心掛けました。彼の作品はたくさん見ていますが、ひとつの作品しか撮っていないように思えます。私と同じですね(笑)。
――映画祭の公式プログラムでは、黒澤明監督に言及していますが。
オズデミル監督:クロサワは私にとっての先駆者で、とっても好きです。『夢』はあたかも彼の遺言のような作品で、私的には最も重要な作品です。
――過去に3作品に出演したジェイラン監督からアドバイスはありました?
オズデミル監督:構想を立てるときに、いろいろな提言をしてくれました。彼はこの作品を外側から見ているので、気軽な感じで言うことができる。主人公は私を演じているので、私が話しそうな言葉を見つけてくれたりしました。話し合って彼から得たものを、作品に加えてもいます。彼は写真家でもあり、映画と出合うのは私よりも随分後なので、そういう意味では相互に援助し合っている関係ですね。
――そのジェイラン監督の『冬の街』でカンヌの男優賞を獲得して以降、“Siyah Beyaz”(2010年)以外、俳優としての活動があまりないようですが?
オズデミル監督:トルコ国内では、自分の考え方に合ったストーリーをあまり見つけられないでいます。国外では言語の問題があって、あまり活動したいと思っていません。自分の作品でも今後、俳優はしないと思います。
――しかし、周りが放っておかないのでは?
オズデミル監督:ほかの人たちの期待は、私には関係のないことです。
――インターナショナルプレミアとして東京国際映画祭で上映することについては?
オズデミル監督:思いもしなかったことで、とても特別なことだと重要視しています。作品を(東京に)送った後に、エコがテーマであることを知り、とてもうれしかった。私の作品が選ばれ、私たちが参加することによって、映画祭がひとつにまとまったという気がして、とても幸せです。正直に言うと、世界では正直な映画祭とそうでない映画祭があります。そういう意味で分けて考えると、私たちにとって東京は非常に重要です。
今回来日していただいたのは、左からサードゥック・インジェスさん(エグゼクティブ・プロデューサー)、ムザッフェル・オズデミルさん(監督/脚本)、セルピル・オズデミルさん(美術)の3名でした。
聞き手:鈴木 元(映画ジャーナリスト)