10/29(土)コンペティション部門『ガザを飛ぶブタ』のQ&Aが行われ、脚本も務めたシルヴァン・エスティバル監督、女優のミリアム・テカイアさんが登壇しました。
――最初に一言ずつ、ご挨拶をお願いします。
シルヴァン・エスティバル監督(以下、監督):こんにちは。日本に来るのもフェスティバルも初めてで、今回ご招待いただいて非常にうれしく、また光栄に思っています。アジアの皆さんにこういう形で映画をご紹介できることは非常にうれしいですし、皆さんに何か訴えるものがあればうれしいです。
ミリアム・テカイア(以下、テカイア):この映画を皆さんと共有できることがすごくうれしいです。また、コンペ部門に選出されてとても光栄です。
Q.監督は脚本も書かれています。この映画はブタの存在を介在にして2つの地域の問題を描く物語ですが、ブタという発想はどこからきたのでしょうか?
監督:2つのアイデアをミックスさせたものなんです。1つはイスラエルでカメラマンをしている友人から、実は不浄なものとされているブタをイスラエルで育てることが可能だと聞いて非常にショックを受けたこと。もう1つは、私たちが住んでいるウルグアイではよく羊を中東に向けて犠牲祭に使うために輸出しているんですが、ブラジルのホテルにいた時にそれが羊ではなくブタだったらどうだろうとちょっと夢想してみました。そしてそれがガザに行ったらなんかおかしいなと思って、この両サイドを結ぶものがお互いが拒絶しているブタだったら面白いことになるのではないかと思ったのがきっかけです。
Q.監督は脚本を書かれるにあたり、チャップリンのことをお考えになったと聞いています。実際に映画を拝見して、演出面でもチャップリンの影響があるように感じたのですが、チャップリンへのオマージュはどの程度あったのでしょうか?
監督:本当にチャップリンにオマージュを送っている作品なんです。チャップリンの作品の中には非常に好きな所が多いんですが、例えば人物像の描き方にしても、非常にナイーブで素朴でありながら、ちょっとずるがしこい所もある。そういう人物像を描こうとしました。
また、チャップリンに対するオマージュ以上に、編集の時にもいろいろと問題にぶつかりました。ユダヤ人でもイスラム教徒でもないので、こういう映画を作る正当な権利を持っていないと批判されたんです。その時にチャップリンの『独裁者』のことを考えました。非常に大作で、でもチャップリンはユダヤ人でもドイツ人でもなかった。ですので、なにか非難されたり、ちょっと諦めかけた時などに、チャップリンを心に想って励ましにしました。
Q.2つの国を結ぶものとしてのブタということで、この映画はある意味ブタが主人公だと言ってもいいような気がします。映画の中で出てきたブタは、キャスティングを行ったのでしょうか?
監督:はい、しました(笑)5匹のブタが撮影にいて、1匹を使いました。それはメスだったので、オスの役をメスがやるということでブタにも演技が要されました。名前はシャルロットと言います。一番初めは醜いブタを探していたのですが、結構ブタってかわいいんですよね(笑)映画のストーリーの中でもブタに心を打たれる部分が必要だと思ったので、かわいいブタを選びました。実際には2匹のブタを使いましたが、メインはシャルロット、危険なシーンでスタントをやったのがオスのベイブというちょっと小さなブタでした。そして、フランスの中でベトナム産のブタを探すのは大変だったので、キャスティングディレクターはすごく頑張ってくれたと思います。
――映画の中で言っているベトナム産のブタというのは本当なんですね?
100%ベトナム産です(笑)
Q.最高の映画でした。観客賞を期待します(会場から拍手)。お二人の一番好きなシーンはどこですか?ちなみに僕は奥さんがバスルームでブタを見つけるシーンがとても面白かったです。
監督:選ぶのが難しいですね。しいていえば、主人公が奥さんにドレスを贈るシーンが好きです。というのは、あそこで主人公が初めて男として自分に力がある、お金持ちの男だと感じ、二人の関係が新しくなったからです。関係は新しくなったが、現実はまだそこにあるということを表しているシーンです。ミリアムはそこには出ていないのですが。
テカイアさん:フランスではすでにこの映画は上映されているのですが、その時私は毎日違う劇場に足を運び、観客の方と一緒にこの映画を観ました。すると、インテリの人が多いところや、田舎の人が多いところなど、劇場がある地区によって、笑いが起こる場所が違うんです。私は笑いというのは非常に大きなコミュニケ―ションだと思っています。
結局色んなところで笑っていただけたので、すべてのシーンが好きになりました。
Q.イスラエルの方も、パレスチナの方もこの作品をご覧になったと思うのですが、それぞれのリアクションはどうだったのでしょう?
テカイアさん:観客の70%が中東の人たちという特別な場所がありました。皆アラブ語やヘブライ語が分かるので、映画のなかの細かい会話が分かる。実はそういうところにも行き、耳をそばだてていたんですね。そしてFACEBOOKやTwitterも覗いたのですが、イスラエルの方も、パレスチナの方も、ともに楽しんでいただけたようです。両サイドの方から愛されている映画だと言っていいと思います。
監督:このプロジェクトが最初に始まったとき、映画館の人たちは非常に怖がりました。映画館に火をつけられるのではないか、と。リスクをとって映画化しましたが、結局は、両サイドの方々ともに、前向きに受け取ってくれました。ユダヤ系のブログでも励ましを受け、多くのユダヤ系のフェスティバルにも呼ばれました。アラブのほうでもエジプトやレバノンでの公開が予定され、大変に嬉しいことでした。まさに自分が望んでいたことです。
笑いというのは繋がりを作るんですね。それによって対話が再開されるといいなと思っています。俳優たちもパレスチナ人、イスラエル人、チュニジア人、エジプト人など20カ国以上の国籍の俳優が参加していました。往々にして外国からは更にネガティブな感情が持ち込まれてくるのですが、彼らもこうした不条理な状況、愚かな状況には笑いが必要だと言っていました。
Q. 不思議に何度も笑ってしまったのはジャファールさんの「自転車」でした。あの自転車、ライトはつくのでしょうか?ぶらぶらしていて前を照らすことはできないと思うのですが(笑)。
監督:あれは不思議な自転車で、ブレーキをかけると光がつき、クラクションが鳴るようになっています(笑)。あのような光や音がでるように、非常に手が込んでいるのです。最初に3000ユーロ(30~40万円)もする立派な自転車を買いまして、見た目はひどいですが、完璧にメカニカルに動いてくれるように細工をしています。大道具が頑張ってくれたものなんです。
Q. エレーナ役を演じられたミリアムさんに質問です。イスラエルとパレスチナという永遠のテーマ、問題を抱えながら、どのような気持ちで演じられたのか、そして演じられて見方や気持ちがどのように変わったかをお聞かせください。
テカイアさん: 私はイスラエルの入植者に対して、イデオロギー的に同調できず、ネガティブな先入観を持っていました。まずそれを打ち消す、ということに努力を費やしました。そしてこの役を受け入れて、私自身がエレーナを真摯な形で演じることができるまで、エレーナの心臓の鼓動すら自分自身のものにすることができるまで、彼女に非常に好感を持つことができるまで、ずっと役作りをしました。
私は、紛争を永遠の問題だと思っていません。かなり長い間続いている問題ですが、永遠だとは思っていません。確かに、私の視点は変わりました。いろんな事を議論するときに、より平静な気持で議論ができるように、客観視できるようになりました。
Q.監督、この作品のできばえはいかがですか?ご自分で点数をつけたら何点ですか?
監督: 映画に点数をつけるなんてかなり難しいと思います。これからは規則でその質問を禁止することを提案したいと思います(笑)。
映画を作るときには色々制約があります。この映画の場合も予算が少なかった。それでも、シナリオを書いたときに想像していたのと大体相違なくできたという意味では、わりと満足しています。まず豚のシャルロットには100点満点をあげたいと思います。自分自身にも少し甘く付けて70点でいいかなと思います。
ガザを飛ぶブタ