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2011.11.08
[イベントレポート]
来てくださった皆さんとの、一度だけの忘れられない時間を得られてとても嬉しく思います。―― 10/26(水)日本映画・ある視点『ひとつの歌』: Q&A

10/26(水) シネマート六本木にて、日本映画・ある視点『ひとつの歌』の Q&Aが行われ、杉田協士監督が登壇しました。

©2011 TIFF

 

杉田監督:本日は平日の夕方という時間に起こしくださって、ありがとうございました。

 

司会:今日が二回目の上映となりますが、上映する劇場も変わり、改めてご覧になっていかがでしたか?
 

杉田監督:映画って不思議なもので、作品は変わらないのに上映環境や、いらしてくださる皆さんの雰囲気で、見え方が本当に変わるんですよね。今日もまた新しい発見がありました。

 

Q:剛と母親がくじを引くシーンがありましたが、結構はずれが続いていたように思いました。あの箱に当たりは入っていたのでしょうか?

 

杉田監督:当たりは入っていました。ペンギンの王様とかも入っていたのですが、たまたまあの二人がひどいくじばかり引いてしまって、どうしようかと思ってしまいました(笑)

©2011 TIFF

 

Q:何故ですか、あれはなんですか?と聞いてしまうのは余韻が楽しめない気がするので、それは聞きませんが、ひとつ「これは無いな。」と思ったのが、桐子さんが母親の日記帳を剛さんに見せますよね。私は会って間もない、好感も持っていない人に、母親の日記帳は見せないと思いました。そこが納得できなかったのですが、あのシーンについては、協議されたのでしょうか?
 

杉田監督:話し合いはしてないです。僕の判断です。この映画は色んな時間をジャンプして撮っているところがあります。母親の大事な日記帳を剛に見せることになった経緯を伝えようとすると、形としては明瞭になるのかもしれませんが、結果として言い訳になってしまいます。
出会って間もない剛と、二人でバイクに乗っている時間を経て、あの日記帳を渡します。彼女にとって本当に大事な灯台のシーンでは、剛はそこに居なかったと思います。彼女が一人で尾根を歩いて行く時、僕も、映画を見てくださった皆さんにも見ることができない、彼女ひとりだけの時間があったんです。剛は待っていることしかできない。そういうことの判断ができる剛の人柄から、彼女には「彼にだったら」という気持ちが芽生えたんだと思います。
 

Q:二人を背中から撮っているシーンが多かったように感じました。カメラが主人公たちと同じ目線だったと思うのですが、それは淡々と時が流れているように見せるためでしょうか?カメラのポジショニングについての、こだわりを教えてください。
 

杉田監督:このチームはみんな背が小さいんですよ。小さい人たちがちょこちょこ動いているチームだったので、なんとなくその高さが出たのではないかと思います。改めてスクリーンで見直した時に「この作品は、スクリーンで見るとこう映るんだな。」と思って、「上映できてよかったな。」と思いました。
 

司会:意外とシンプルなお答えですね。
 

杉田監督:本当にそうだと思います。(笑)
 

司会:私は、非常にとんがった作品だなと思いました。監督の以前の作品も拝見しましたが、以前の作品ともまた作風が変わっていて、この作品を見て「頑固な方なんだろうな」という印象がありました。
 

杉田監督:まさかの感想ですね(笑)ありがとうございます。
僕も大きいスクリーンで見て、「現場で自分が見ていたものはこれだ。」と分かりました。ずっとテレビサイズのモニターで作業をしていました。試写室を借りたりもしましたが、割と小さなスクリーンたったので、今回TIFFで上映させていただいて、それぞれのシーン、それぞれのカットに、どうして自分がOKを出してきたのか、一年ぶりに理由が分かりました。とても貴重な機会でした。ありがとうございました。
 

司会:この作品を見て、省略主義な方だと思いました。最後にとても素敵な音楽がありますが、それ以外はほとんど音楽もないですし、セリフに関しても、重要な部分しか入れていないと感じました。一番最初に出てくる「お疲れさま」というセリフが19分48秒目なんですよね。何故あそこまで省略していって、必要なものしか残さないというようなストーリー展開にしていったのでしょうか?
 

杉田監督:僕を含めて5人のスタッフで撮影を行なっていたんですが、今回集まった5人が持っていたリズムが、あのセリフの量を決めて行ったんだと思います。当初は、もっとセリフの多いシーンもあったのですが、試しに演じてもらうと、「ん?」となってしまう。言葉では上手く説明できないんですが、耳に入る量としてもっと伝わりやすくしようとすると、上手くはまらなくなってしまったんです。それは理由というより、一緒に映画作りをしていたメンバーのリズムだったんじゃないかと思っています。あまり答えになってないかもしれないですが。
 

Q:監督の人間性が出ている映画だと思いました。最近は、眼鏡をかけないと見れない映画や、テレビ番組の拡大版のような映画が多いですが、僕は人に考えさせる、答えのない映画が好きなので、こういう映画に出会えて嬉しく思っています。この映画を撮る上で、こだわったことをひとつ教えてください。
 

杉田監督:僕自身の今までの生活の中で、何か解決できている物がひとつもなくて、こっち行ってもあっち行っても、何かある度に問いが増えてしまうんです。年をとって行けば減るのかと思ったら益々増えて行くという感覚です。それは映画も同じだと思っています。
映画に向かえば向かうほど問いだらけになってしまって、一人で立ち向かうには大変になり、みんなに手伝ってもらって踏ん張って向かうという感覚です。そういう思いで一度映画を撮ってみようと思い、今回のような作品になりました。
こだわったポイントなんですが、ご飯は凄くこだわりましたね。今回お弁当を一回も出してないんですよ。朝は食べてから来れるくらいの集合時間にして、昼と夜は行く先々の美味しそうなお店にみんなで入ってたらふく食べました。伊豆に行った時に、主演のタケがあまりに海産物を食べ過ぎて太ってしまっって「ちゃんと調整しろ。」と凄く怒りましたね。ご飯は毎日美味しい物にこだわりました。そういうことじゃない方がいいですかね(笑)
 

司会:映画の中で、このシーンはこだわったとか、この美術品はこだわったなどあればお願いします(笑)
 

杉田監督:さっき余韻がとおっしゃった方がいたので内容についてはあまり言わない方がいいかと思うんですが、カメラの撮り方を一度だけ指示しました。二人がバイクで走っているシーンで、あのシーンは僕は後ろから見ていたいと思ったんです。彼らがどこかに向かっていく時に、何となく先に行きたくないというか。二人の前でカメラを後ろ向きに持ちながら撮るとか、サイドに回って表情を撮るより、みんなで追いかけて行こうという感じを出したかったんです。僕らもストーキングするという訳ではないですが、この映画は「追う映画」だと思っていて、そういう指示を出しました。そのシーンを撮っている時は本当に楽しくて、(目的地の)下田まで5時間くらいかかるんですが、延々話し合いながら撮りました。桐子役の石坂友里さんが、振り向きそうで振り向かない演技をしてくれたり、みんなの間合いが噛み合っていて凄く面白かったです。

 

Q:最初の方で剛が枡野さんを尾行していたと思うんですが、そこがとても印象に残りました。その後まったく絡みがなかったんですが、そのシーンの意図を教えてください。
 

杉田監督:これは、もう一回見てみてください!
先程の「余韻を」とおっしゃっている方がいるので控えますが、この質問に答えてしまうと核心を全部話してしまうことになります。多分もう一回か二回くらい見ていただけると、見えて来ると思います。
あ、枡野さんが手を上げております。
 

(会場にいらっしゃった)枡野浩一さん(出演者):ご紹介にあずかりました枡野ですけども(笑)、有名な「ウミガメのスープ」というクイズをご存知でしょうか?ある人がレストランでウミガメのスープを食べたらショックを受けて自殺をしてしまいました。なぜなんでしょう?というクイズなんですが、僕はこの映画はそういう風に作っている映画だと思っていて、何故あの時剛は泣いたのだろうとか、本当に分からないシーンばかりなんですが、二回見ると分かったんですよ。四回目で分かったこともあったんですよ。四回目が一番面白かったし、四回目で初めて剛と一緒に僕も泣きました。
僕は短歌を作るのが専門で、一度読んで面白い短歌を作るようにいつも指示をしているので、映画を二回見てというのは正直どうなのかなと思うんですが、この映画を何度も見ることで映画の見方が変わったような気がします。
今度、監督とトークイベントをやりますので、どうしても知りたい方は、その時に来ていただければと思います。でも本当にもう一回見るとびっくりするくらい明確にストーリーが分かります。公開されることを祈っていてください。
 

司会:もう一回というのは、どこかで上映が決まっているんでしょうか?
 

杉田監督:来年中には、どこかで上映します。上映してくれるという劇場がひとつあって、今調整中です。地味に全国公開もしようと思っているので、いろいろと回れたらなというところです。
 

司会:そこで謎が解明されると思いますので、是非足を運んでいただきたいと思います。それでは最後に、監督にこの場を閉めていただけますでしょうか。
 

杉田監督:参加する前は、全然見当もつかなかったんですが、本当に色んな方と出会える映画祭なんだなと思いました。大袈裟ではなく、今日来てくださった皆さんとの、一度だけの忘れられない時間を得られてとても嬉しく思います。ありがとうございました。
 

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